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あなたの相続税対策は大丈夫? 最高裁で新たな判決が出ました!

2022.05.10

はじめに
令和4年4月19日に、最高裁で注目の判決が出ました。
納税者と国税庁が不動産の評価を巡り争っていたのですが、最終的に国税庁側が勝ち、納税者は2.4億円の相続税を支払うことが決定しました。(他に加算税・延滞税も発生します。)

今回はこの話を、できるだけ法律用語を使わず分かりやすく解説します。
なお、法解釈等に関しては個人的見解も含まれることを予めご了承ください。

裁判の概要
この件は、2008年当時90歳のAさんが信託銀行に事業承継の相談をするところから始まります。
翌年1月に甲物件8.4億円、12月に乙物件5.5億円、合計13.9億円の収益物件を購入します。
その際、Aさんは銀行よりそれぞれ6.3億円、3.8億円、合計10.1億円の借入をします。
(銀行の内部の稟議書にはバッチリ「相続対策のため」との記載。)

その約3年後、2012年6月にAさんは死亡。
甲物件購入から3年4か月、乙物件購入から2年6か月経過していました。
相続税申告のため相続財産評価をしたところ、甲物件2.0億円、乙物件1.3億円、合計3.3億円。購入代金13.9億円に比べ実に10億円の評価差額です。
この評価額に基づき2013年3月に相続税0円で申告します。
(なお同月の相続税申告前に相続人は乙物件を5.2億円で売却しています。)
申告から約3年後2016年4月に税務署より課税処分が下ります。

「不動産鑑定評価の結果、甲物件は7.5億円、乙物件は5.2億円、合計12.7億円。相続税2.4億円と加算税・延滞金を支払うように。」

相続人は異議を申し立て、国税不服審判、地裁、高裁と争いますがいずれも敗訴。
最高裁で最終弁論まで開かれましたが、今回の判決により納税者側の負けが確定しました。

2、判決を読み解く上での基礎知識
ポイント1
相続税の計算に用いられる不動産評価額は、「市場価格(≒鑑定評価額)」ではなく、原則として国税庁発表の「財産評価基本通達(国税庁ルール)に基づき計算した金額(以下「相続税評価額」)」によります。
「平等性原則(課税の公平)」の見地からこのような取扱いになっています。
市場価格というのは様々の要素が絡み合って形成されるため、一律公平に課税しようとする税法の趣旨に本来合致しません。

そこで相続税の計算においては国税庁ルールで一律に不動産価額を評価しようということです。
なお、通常「相続税評価額」は「市場価額」の80%~60%位の評価になるため、納税者にとっては基本的に有利に働きます。

ポイント2
不動産評価において「特別の事情」があるときは、「相続税評価額」ではなく「鑑定評価額」を用いて相続税を計算します。
ここでいう「特別の事情」とは、「相続税評価額」で計算した方が、逆に「課税の公平性」を損なう場合を指します。
今回の事例がこれに該当します。

納税者側は、不動産を相続税評価額の3.3億円で申告しました。
それに対し税務署は、「特別の事情」に該当するとして、鑑定評価額の12.9億円で計算し更正処分を下しました。
裁判を経て、今回の件は「特別の事情」に該当するという最終的な司法判断が下されたという流れです。

ポイント3
「特別な事情」の具体的な判断要素は?
「特別な事情」=「課税の公平性を損なう場合」と上述しましたが、具体的に何をもって判断するのでしょうか?
実はこの論点は昔から存在しています。
いまだに明文規定はありませんが、過去の判例から次の2点を判断ポイントとして捉えるのが一般的な法解釈です。

① 相続税評価額と市場価額(鑑定評価額)が著しく乖離していること
② ①の価格の乖離が、納税者自身の租税回避を目的に行った行為によるものであること

この2つのポイントが揃うと、「特別な事情」に該当するとして「鑑定評価額」による不動産評価となります。
言い換えると、「相続税負担を抑える目的で、本来必要もない不動産を購入したよね。
実際、かなり相続税安くなっているし。その場合は、相続税評価額は使わせません。」ということです。
今回の事例も、最終的に従前の裁判例を踏襲した結果となりました。

ポイント4
価格の著しい乖離っていくら?租税回避ってどういう行動?

税務判断をするうえで、「形式基準」「実質基準」という考え方があります。
「形式基準」とは具体的な数値をもって判断する基準のことです。
「価格の乖離」であれば、「評価差額が〇〇円以上または△△%以上の場合は、著しい乖離に該当」。
「租税回避行為」であれば、「相続発生の○○年前に購入、△△年以内に売却分は時価評価による」といった判断基準です。
わかりやすいです。

「実質基準」とは一連の事実を総合的実質的に判断する基準のことです。
(簡単に言うと「常識的に考えれば普通にわかるよね」ということです。)
「価格の乖離」であれば、「12.9億円と3.3億円の差額は、普通に考えて著しく乖離しているよね」。
「租税回避行為」であれば「高齢者が死亡直前に高額物件購入して相続発生後すぐ売却するって、普通に考えて税金対策だよね。」
という判断基準です。非常に曖昧です。

 この「特別の事情」に該当するかの判断基準に、「形式基準」は存在しません。
「実質基準」で判断せざる得ないため、納税者にとって非常に頭の痛い話となっています。

3、今回の最高裁判が注目された理由とその意味

今回の最高裁は業界ではかなり注目されていました。
高裁の判決は妥当という見方が多数であったため、「上告しても棄却されるだろう」と誰もが思っていました。
それが棄却されないどころか、最終弁論まで開かれると聞いて私も驚きました。
「納税者の逆転勝訴か?」「何かしらの明確な基準(形式基準)が示されるのか?」判決内容に注目が集まりました。

結論としては、肩透かしに終わりました。
判決文は要約すると次の通り

「評価額の大きな乖離をもって、特別の事情に該当するとは言い切れない。
しかし、著しい税軽減、一連の行動は租税負担軽減をも意図したものといえる。
また不動産の購入借入をしないできない他の納税者との不均衡を考えると、特別の事情に該当すると判断する。」

特に具体的な「形式基準」も出されることなく、今まで通り「実質基準」に基づく判決になったというのが私の感想です。
しかし、今回の件は最高裁判決が出たということに重要な意味があります。

国税庁が「特別の事情」の判定を「実質基準」により行うことについて司法がお墨付きを与えたということです。
不動産購入を利用した過度の節税に対して、国税庁はNOと言いやすくなったといえます。

4、健全な資産活用・健全な相続対策こそが最大の税務対策
私はお客様に「税金に引っ張られすぎるのはよくない。」とお伝えすることがあります。

本来不動産投資とは、資産を活用して効率的に利益を追求していくことです。
本来相続対策とは、本人及び遺されるご家族の将来の幸福を追求していく事です。節税は次の話です。

本来の目的を忘れ節税中心で話を進めると、最終的にわけのわからない資産が残って、みんなの気持ちもバラバラという事態を引き起こしかねません。

「確かに税金は安くなったけど、いったい誰が幸せになったの?」そこに税務署がやってきて「租税回避行為に当たるので、税金払ってください。」最悪です。

初めから本来の資産活用・相続対策を目的に取り組んでおけば、たとえ税務署から「租税回避が目的では?」と聞かれても「租税回避が目的ではありません。利潤の効率化と家族の幸福を追求した結果です。」と堂々と答えられます。

いずれにせよ、行き過ぎた節税対策については、今後は注意が必要です。
ご本人が元気なうちに目的をもって資産活用・相続対策を進めることが重要です。

筆者紹介

山方越志税理士事務所 
山方越志

初めまして。税理士の山方と申します。
私は、これまで相続税の申告に50件近く携わらせ頂いてます。 相続対策も含めますと少なくとも100件以上にはなるかと思います。これは、税理士としても相当な案件数と自負しているところです。
相続実務においては、相続税の知識はもちろんの事、周辺税法・民法・社会保険料及び不動産といった様々な知識からの多角的な検討が必要となります。
その中でも、とりわけ重要なのはご家族皆さんのお気持ちの部分だと、仕事のたびいつも痛感させられます。

節税のアドバイスは当然のこととして、何よりも「その人の大切な物が大切な人に引き継がれていくことのお手伝い」をモットーに業務に携わらせて頂いております。

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